第107章 零から
「俺は、君の涙より笑顔が見たいんだがな」
「・・・?」
突然何を言うのかと、隣にいる彼へ目を向けた瞬間、頬に生暖かい何かが伝ったのを感じた。
「君は強がるくせに、すぐ涙を見せる」
慌ててそれを指で拭えば、知らぬ間に流れていたそれにようやく気付いた。
遂に涙腺が壊れたようだ。
意思に関係なく、勝手に溢れてくる。
・・・いや、とっくに壊れてはいたか。
被らされていた帽子を目深にすると、押し出されるようにまたポロポロと零れてくる。
止めようと思ってもできない。
「海は繋がっている。安室くんも、よく海辺に行っていたみたいだからな」
何故そんな事を知っているのか。
だから、間接的に会わせたとでも言っているのだろうか。
「これから君が住む予定のマンションは、ここではないがビーチの近くだ。変えるなら今のうちだが」
私が海を見る度、思い出すのなら・・・ということか。
自分でも、泣かないとは言い切れないけど。
「・・・良いじゃないですか」
零に会っている気になる、というよりは。
兄に会えるような気がしたから。
ー
数週間後、私は赤井さんに言われていた通り、海が近くのマンションに身を置くことになった。
私1人なのに、そこは十二分に広い部屋で。
どうせなら全く人に会わないような場所で生活したかったが、赤井さんがそれを許さなくて。
周りの目が無い場所は許可できない、と。
まだカーテンもついていない部屋の窓から外を除くと、以前赤井さんが言っていた通り、少し先に海が見えた。
あれから組織のことがどうなったのか。
FBIや公安は無事だったのか、そういう話はしないけれど。
赤井さんは時々ここに顔を出しては、何でもない話を色々してきた。
時が経ち、アメリカに来てもうすぐ半年が経とうかという頃。
いつものように浜辺に座って海を眺めていると、赤井さんは煙草の煙を燻らせながら私の傍に腰掛けた。
「FBIって、暇なんですか」
「そう見えるか」
皮肉っぽく言ってみても、彼には何の効果も無い。
だからこそ、遠慮なく何でも言えるのかもしれないが。