第107章 零から
次の日。
再び目を覚ました時、やはり目の前にいたのは赤井さんだった。
「まるで眠り姫だな」
この日は丸一日眠っていたらしい。
そのおかげなのかは知らないが、前回目を覚ました時よりも明らかな回復を感じていた。
「零は・・・無事、ですか・・・?」
今日は声が出る。
その事に気付いた時、一番に確認したのは彼の安否だった。
あの作戦はFBIにもリスクはあったが、勿論公安にもそれなりのリスクがあったから。
彼なら上手くやる、と赤井さんは言っていたけど。
「・・・こんな時に他人の心配か。君らしい」
だって。
もうすぐ私は、私では無くなるから。
零と呼んでも良いのは、今だけだと思ったから。
「安心しろ。もうすぐ組織の件も方がつく」
・・・そう、か。
終わるんだ・・・。
もうすぐ、全てが終わるんだ。
「・・・良かった」
零が無事だったことも。
FBIに被害が無さそうなことも。
私が問題なく、証人保護プログラムを受けられそうなことも。
「最後に安室くんから言われたよ」
「?」
何を?と目で尋ねれば、彼はどこか挑戦的な表情で口角だけを上げて。
「許さない、とね」
そう言った彼に、眉間の皺を寄せた。
・・・やはり、一番の危険は赤井さんにあるのではないだろうか。
彼にも、悪い事をしたとは・・・思っている。
零の友人だけでなく、私の亡霊も背負わせてしまったから。
「・・・零」
口に出すのはこれが最後にしよう。
そう思いながら、ポツリと呟くように名前を零して。
好きだった。
大好きだった。
危険でも、彼の傍に居たかった。
ずっと、ずっとずっと。
何一つ約束が守れないままだけど。
・・・愛してる。
ーーー
その後、私はアメリカに渡って証人保護プログラムを受けた。
渡米して数日間、赤井さんは今現在のように、見張りだと言って私の傍から離れなかった。
恐らくそれは、私が自決するのを防ぐ為だろう。
後に赤井さんからは、アメリカに来た数ヶ月間の私は、まるで生きているようには見えなかった、と言われたが。