第107章 零から
「そういえば、ジョディさんやキャメルさん・・・元気ですか」
いっそ話を変えてしまおうとそう尋ねれば、赤井さんは口にくわえていた煙草を、持っていた携帯灰皿に入れ、私にそっと視線を向けた。
「珍しいな。君が彼らのことを尋ねるのは」
確かにこの一年、ジョディさん達のことを尋ねることは殆ど無かった。
全てを知った上で協力してくれていたジョディさんと違い、キャメルさんには本当に悪い事をしたと思っている。
その方が零を欺けると赤井さんは言っていたが、仮死状態になった私を見たキャメルさんもまた、倒れる寸前だったと聞いて。
「ジョディもキャメルも、今は日本に居る。でなければ、君の彼の情報も入っては・・・」
「もう私の彼ではありません」
本当のことなのに、言っていて悲しくなる。
それに、公安と接触する必要の残っていないジョディさん達から情報が回ってくるという事は。
「・・・追い回してるんですか」
そんな事は無いと理解はしているが、例えそうでなくても、もうそういう事はやめろと遠回しに言ったつもりで。
「逆だな。君の彼が我々を追い回しているんだ」
「・・・?」
零が・・・?
どうして?
「どうやら完全には、騙せなかったようだな」
・・・そんな馬鹿な。
彼の目の前で、呼吸も心臓も止めてみせたのに。
「い、いつからですか」
「半年程前からだ」
半年前・・・。
そういえば、こちらに来てすぐの頃はまだ、赤井さんも零の話をしてこなかった。
し始めたのは・・・それくらいからだったか。
どうしてそれを今まで黙っていたのかと言いかけて、何とか飲み込んだ。
つい先程も、彼については教えてくれなくて良いと、自分で言ってしまったのだから。
「どうやら、どこかで何かに気付いたようだな」
そんなはずない。
あそこまで入念に準備したのに。
「実際、君を探し回っている」
・・・やってしまった。
赤井さんの言葉を聞いて瞬時に思ったのは、そんな感情。
「もしくは、君の死を未だ信じていないか・・・だな」
彼に探されたくなくて。
彼の時間を奪いたくなくて。
だから、彼の目の前で死を偽装したのに。
これでは・・・意味が無い。