第107章 零から
「傷の具合はどうだ」
「・・・それ、会う度聞きますよね」
まるで零のようだと、こんな時まで思ってしまう。
あの日、撃たれたペイント弾のような物の中には、私の血液が入っていた。
血液は少しずつ、哀ちゃんに会う度に採ってもらっていて。
ただ、流石にそれだけでは血液量が足りない為、ペイント弾が撃たれると同時に血液が漏れ出るような装置を、阿笠博士に作ってもらっていた。
それは赤井さんの車に乗り込んだ際に、腰に装着していて。
背後から撃たれた打撲痕のような傷は、未だに消えずに残っている。
流石に、弱った無防備な状態でそれを撃ち込まれたせいで、肩は骨折、体の内部の損傷で吐血までした。
足は実弾を撃たれた為、また傷を増やしてしまった。
でも実弾を撃たれていない背後に目を向けない為には、実際の傷が必要だった。
その為の、三発目で。
「傷の事は今後聞かないでください。自分で見ないようにする為に、背後にしてもらったんですから」
前だと、視界に入ってしまう。
でも背中側なら、普通にしていれば目に入らないから。
だからわざわざ、赤井さんには私の背後から撃ってもらったのに。
「こうして会っていれば、嫌でも思い出しそうな気もするがな」
「だからもう会いに来ないでくださいとも、会う度言っているんですけど」
その願いは中々聞き入れてもらえない。
監視役だ何だと言って、こうして会いに来る。
「俺が忘れさせてやる、ともな」
・・・そういうことも時々言ってくるが。
勿論それも、本気には聞こえない。
でもここまで根気強いと、逆に尊敬さえしてくる。
「だから・・・赤井さんじゃ、無理なんです」
過去には赤井さんで零を忘れようとしたこともあったけれど。
やはり人を人で隠すことはできない。
「では、沖矢昴ならどうだ?」
そういう問題ではない。
今日は口に出さないが、そう何度言ったことか。
・・・でも、こういう言い合いをしている時間が、意外と気が紛れていると言っても間違いは無くて。