第107章 零から
でも・・・それでも。
やっぱり忘れられない。
忘れられる訳が無い。
忘れようとする度、逆に刻み込まれてしまう。
彼は今どんな顔をしているのか。
どんな思いで過ごしているのか。
そんな事を考えると、忘れられる訳がなかった。
「・・・忘れられる訳・・・ないじゃないですか」
一年、というあの時と同じ日が来たからだろうか。
ふと小さく本音が漏れてしまった。
私達の別れは、決して良いものでは無かったから。
一年前の、あの日。
私はとある薬を飲んで、一時的に死を偽装した。
それは徐々に体の機能を低下させ、仮死状態にさせるもので。
勿論リスクはあった。
だからそのリスクを減らす為に、赤井さんにも協力を頼んでいて。
あの時彼に撃ち込まれた銃弾。
その一発目と二発目は麻酔や僅かな中和剤が混じった、ペイント弾のようなものだった。
三発目は、傷が確認できる位置に実弾を撃ってもらって。
ただ、今回の作戦と取引は組織の人間も絡んできていた為、FBIにも大きなリスクがあった。
だからもしもの時は、実弾で私を仕留めてほしいと赤井さんには頼んでいた。
彼はその『もしも』にはさせないと、言ってくれていたが。
「・・・・・・」
あの日の作戦は、恐ろしい程上手くいった。
上手く行き過ぎて、本当は成功していないのではないかと思った程。
あの日使った倉庫には、前々からFBIが通路を作ったり、何度か通って組織や公安へ密かに印象付けていた。
そして当日、私は事前に赤井さんとコナンくんから言われていた通りに、事を進めた。
二人で使う暗号を決めたり、哀ちゃんからあの薬に対する説明を受けたり、公安や組織にハッキングした形跡を残したり。
そして、あの抜け道を通ること。
零を引きつけること。
指示を受けたことを淡々とこなした。
組織のスナイパーがあの場にいることも。
零が船を使うことも。
そのエリアがどこなのかも。
全て最初から彼らの予想と作戦通りだった。