第107章 零から
「赤井さんって、私に会っても良いんですか」
「俺は君の監視役でもあるからな」
今更過ぎる質問に、彼はそうサラリと答えてみせたけど。
彼が言うと本当か嘘か未だに分からない。
本当はダメなのではないか、なんていうのは、私が気にする事でもないけれど。
「監視って・・・私が悪いことしたみたいじゃないですか」
「これからするかもしれないだろう?」
・・・私が零に、会いに行くかもしれないとでも言いたいのだろうか。
その割には来る頻度が少ないと思うが。
「実際、証人保護プログラムを受けた内の95%は犯罪者と呼ぶべき人間だ、と創設者は言っていた」
・・・そう、なのか。
いや、そうだとしても。
「私のそれを助長してるのは、赤井さんだと思いますけど」
別に来てほしい訳では無いが。
彼はこうして何度か私の顔を見に来ては、いつからか零の様子を報告しに来ていた。
家かこの場所にしか来ない私にとって、不必要この上無いことだと思っていた。
そう、口にも出していたのに。
「今日も、君に会いに行くそうだ」
「・・・そうですか」
赤井さんは今日も、こうして報告をしてくる。
聞きたくないのに。
どうしてこうも意地悪なのだろうか。
「本当に、もう教えてくれなくて結構です」
ようやく・・・一年が経つのに。
「忘れようとしているんですから」
「一年経って忘れられていないのだから、できるとは思えないがな」
大きなお世話だ。
そう心の中で声を大にしながら言い返すと、膝を抱えて顔を置いた。
体もようやく元に戻りつつあり、あの頃を思い出す要素が無くなってきたのに。
「忘れる必要は無いんじゃないか」
・・・赤井さんにそんな事を言われると、更に忘れにくくなる。
それなのに。
「俺を選ぶと言うのなら、歓迎だがな」
そんな事を言っておきながら、変に私を揺さぶらないでほしい。
「・・・・・・」
彼はこの一年、会う度そんなことを言ってきていた。
本気で受け取ってはいなかったが、半年程前に一度だけ・・・本当に、真剣なそれを受けたことがあった。
それ以前とそれ以降は、変わらず冗談のような口調で言っていたが、流石にその時だけは赤井さんのそれを真剣に受け止めた。