第106章 ゼロへ
零と風見さんが花火に気を取られた一瞬だった。
「・・・ッあ・・・」
「!?」
私の背中に、大きな衝撃が走った。
右肩に一発、左腹部に一発、右足に一発。
合計三発の・・・銃弾が撃ち込まれた。
「ひなた!?」
中で抑えきれなかった血液が、口から僅かに溢れて。
流石に立っていることはできず、彼にもたれ掛かるようにして倒れ込んだ。
「ひなた!しっかりしろ!ひなた!!」
・・・痛い。
痛い、のだろうか。
もうそんな事もわからない。
死とは、こういう感覚なのか。
「くそ・・・ッ、誰が・・・!!」
狙撃方面、私の背中側の延長を彼は睨むが、勿論目視で確認できる訳が無い。
FBI最強のスナイパーが、狙える最大距離から狙撃したのだから。
「・・・れ、い」
「喋るな!!」
ボート内に溜まる血液に、風見さんも血相を変えて。
零は私の足を縛り、何とか出血を抑えようとした。
「無理、だよ・・・」
そんな事は彼が一番よく分かっているはずだ。
それでも彼は、行動を止めなくて。
「くそ・・・、くそ・・・ッ!!」
そこに冷静さは欠片も無い。
こういう顔をさせたくなくて、本当はひっそりと姿を消したかったのだけど。
私を探す事に時間を費やしてほしくなかった。
彼は私よりも、守るべきものがあるから。
それを・・・邪魔したくなかった。
「ひなた・・・っ、ダメだ、ひなた!!」
倒れる私を抱きかかえ、意識を飛ばさないように必死に呼び掛けてくれるが、もう瞼は限界で。
もう視界は彼をぼんやりとしか捉えられていないけれど。
頬に落ちてきた温かいそれで、気付くことはできた。
「泣かないで、よ・・・」
「ッ・・・」
初めて見た、彼の涙。
何度か泣いたのではないかと思う場面には出会ったが、実際それを見せることはなくて。
思わず、私も泣きそうになって。
鼻の奥がツンと痛くなる感覚を覚えた。