第16章 話合い
「違う・・・っ!!」
それは違ってほしいという私の願いであって。
考えないようにしていたのに。
「貴女もそう考えたのではないのですか」
やめて。
彼は安室透で・・・
私が知っているのは優しい透さんで・・・
「貴女のお兄さんが組織に潜入していた警察官というのに気付いて、それを隠しながら近付いた」
違う。
「貴女はまんまと罠にハマり」
違う。
「彼に疑われ続けた」
違う。
「そして今日、あの場で鉢合わせたことを偶然だと思わなかった彼は貴女を・・・」
「違う!!!」
暫くの沈黙。
荒くなった私の呼吸だけが部屋に響いて。
頭の中で谺(こだま)する沖矢さんの言葉を消したくて、耳を塞いだ。
それでも消えない脳を駆け巡る言葉に、首を振って床に座り込んだ。
「・・・ちがう・・・」
涙が溢れた。
信じているのに。
全てを裏切られた気分になって。
信じることを少し諦めてしまった自分が悔しくて。
「追い討ちをかける訳ではありませんが、彼は貴女をずっと監視していたみたいですよ」
耳を塞ぐ手を超えて、その言葉は聞こえてきた。
小さく沖矢さんへ目を向けて。
「初めて貴女と会ったあの日、貴女のスマホを借りましたよね」
確かに、連絡先を入れる時に渡した記憶がある。
「失礼ながらあの時、少しだけスマホを調べさせて頂きました。その時、たまたま追跡アプリが入っているのを見つけまして」
でも、それは。
「・・・透さんが入れたという証拠はありませんよね」
涙が頬を伝うのを感じながら言い返して。
「ほぉー、他にそのようなことをする人物に思い当たる方でも?」
目の前の貴方、とか。
そう言い返したかったが、それは事実上不可能なこと。
第一、沖矢さんにはそんなことするメリットが・・・
「更に失礼ながら、それを消して別のアプリを僕が入れさせて頂きました。それも彼によって消されてしまったようですが」
・・・どうやら彼はメリットだけで行動しないようだ。
「・・・百歩譲って最初は透さんが入れたとします。では、沖矢さんはなんの為にそのアプリを私のスマホに入れたんですか」