第16章 話合い
「諸星大・・・という人物について教えてください」
一瞬、沖矢さんの纏う空気のようなものが変わった気がした。その瞬間、金縛りにあったように体が動かなくなって。
「・・・いいでしょう。少しだけ話してあげますよ。ただ・・・」
メガネを指で押し上げながら、沖矢さんは続けた。
「彼はもうこの世にいませんけどね」
ゾクッと何かが背筋を駆け抜けた。
確かに透さんも、そんなことを言っていた気がする。と、あの時の言葉を必死に思い出した。
「彼はFBIから潜入していた捜査官です。バーボンからは酷く嫌われていたようですが」
「・・・透さんに?」
そういえば、透さんは諸星大の死に納得していなくて、それを調べたような言い方だった。
「まあ、彼は組織を裏切った後、その組織の人間に頭を撃ち抜かれて亡くなりましたよ」
「頭を・・・」
想像すると吐き気がしそうで顔を歪めた。
そんな惨いことを平気でするような組織に、透さんがいるなんて。
そして、兄が潜入していたなんて。
「僕が話せるのはここまでです」
正直、殆ど知っている情報ばかりで、期待したような情報は聞けなかった。
「・・・ありがとうございます」
その瞬間、体から力が抜けて強張りが取れたことを確認する。
あとはどうにかして自分で調べるしかない。
もう透さんは頼れない上、置いてあるとは到底思えないが、もしかしたら事務所に何か資料があるかもしれない。
そう思うと今すぐにでも事務所に向かいたくて。
「そろそろ帰ります」
ソファーから立ち上がろうとした瞬間。
「暫く、外には出ない方が良いですよ」
「・・・どうしてですか」
帰るどころか外出すら止められて。
「バーボン・・・安室透が、血眼になって貴女を探しているでしょうから」
「それこそ、どうしてですか」
「貴女があの時あったのは安室透ではなく、バーボンだからですよ」
一瞬、意味が分からなくて。
あの時会ったのは確かに透さんだ。
それは紛れもない事実。
例えバーボンの仕事で来ていたとしても、私には安室透として接してくれた。
「いや。貴女が知っている彼は、最初からバーボンだったかもしれませんね」
その言葉を聞いて、私の中の何かが切れた気がした。