第106章 ゼロへ
「厄介なことをしたのね、貴女」
私から目を離さず、ベルモットがヒールの音を立てながら近付いてきて。
「FBIも組織も敵に回して、何をするつもりかしら?」
「・・・・・・」
私の耳元で囁くように尋ねるが、彼女も私から答えが返ってくるとは思っていないようで。
間近で視線を交えると、何を考えているのか分からない彼女の笑みが目に入った。
「・・・バーボンと、話をつけておきたいので・・・少しだけ2人に・・・してくれませんか・・・」
浅い呼吸の中なんとかベルモットにそう伝えると、私の様子に少し表情を変えたもののすぐに背を向けて歩きだして。
「妙なことは考えないことね。でなければ命は無いわよ」
・・・そんなこと、言われなくても分かってる。
心の中で言い返しては、ジンとベルモットが視界から消えるのを待った。
「・・・零」
「ひなた・・・」
後ろに立つ彼に振り返り、何とか笑顔を作ってみせるが、彼の笑顔が引き出せることは無くて。
「あとは、FBIだね・・・」
彼が貸してくれた腕に掴まり、そう話すと、遅れてやってきたジョディさんが私達の前に再び現れた。
「・・・一度、説明を聞きたい所だけど」
「そんな時間は残ってませんよ」
依然としてジョディさんはこちらに銃を向け、キャメルさんは後ろで慌てている。
その体勢のまま、彼女は私に事の説明を求めてきたが、彼女も同じく、私から答えが返ってくるとは思っていない。
・・・これで良い。
これで良かったんだ。
朦朧とする意識の中、海の方へと目を向けて。
「・・・・・・」
兄はきっと、天国に行ったのだろうけど。
私は多分同じ場所には行けないだろうな。
そんな事を思いながら零に目を向ければ、彼は心配そうな表情で私を見つめた。