第106章 ゼロへ
「・・・チッ」
零は短く大きい舌打ちをすると、私を抱え咄嗟に走り出した。
それはきっと、組織のスナイパーから逃れる為で。
「待ちなさい!」
ただ、FBIも放っておく訳が無い。
私達の後を追いかけると同時に、何発かこちらに向けて発砲された。
「・・・れい」
「喋るな・・・っ、すぐ病院に連れて行ってやる・・・!」
・・・もう、遅い。
そんな事は、零も分かっているだろうに。
諦めが悪いのはお互い様か。
「ひなた・・・っ」
彼は走る最中、何度も私の名前を呼んだ。
まるで私にまだ息があることを確認するように。
「!!」
珍しく零も息を切らしながら走り続けた彼の足は、地面と靴が擦り合う音を上げながら、突然勢いよく止まって。
残念ながら私はその理由にも、検討がついていた。
「どこに行くつもりだ?バーボン」
「・・・大事な鍵を救うために、走っていたんですよ」
この威圧だらけの声は・・・ジンだ。
姿を見なくても分かるのは、声という情報だけではないが。
・・・本当にこれほどまでとは。
驚き以上に、恐怖でため息が出る。
「聞こえなかったのか?その女は殺せと言ったはずだ」
どうやら、公安より先に連絡が入ったのは組織からだったようだ。
いずれにせよ、彼には私の射殺命令が届いているはずだ。
「彼女がいなくなると困るのは組織の方・・・」
「もう必要ない」
・・・そう、私はもう必要ない。
FBIも、公安も、組織も。
全てを裏切った。
「その女は、こちらの情報も搾り取ったようだからな」
組織とFBIだけではない。
公安からもだ。
それが何の情報で、どこまでの情報なのか。
そんな事は、この際どうでも良い。
私が情報を搾取したという、情報だけがあれば良い。
それを作る為に、かなり苦労はしたけれど。