第106章 ゼロへ
「FBIに協力するフリをして、私がハッキングして手に入れたの・・・もし組織で不利になるようなら、これを使って・・・」
息が上がる中、そう言いながら彼の手にメモリーカードを押し付けた。
「ひなた・・・何を言って・・・っ」
戸惑うのは無理ない。
だってこれは・・・。
「貴女、FBIを裏切ったのね?」
バーボンの言葉を遮るように声を上げながら姿を表したのは、数分前に分かれたジョディさんで。
その後ろには青い顔をしたキャメルさんの姿もあって。
彼女の手には銃が握られ、勿論それは私に向けられていた。
「・・・裏切ったのではなく、利用をさせて頂きました」
汗が頬を伝い、地面へと落ちた。
もう、立っているのもやっとの状態で。
「契約違反よ。残念だけど、生かしてはおけないわ」
「待て、FBI!民間人に手をかけて、どうなるか分かっているのか!」
こんな時でも、彼は盾になるように私を庇いながら、視線は外さずFBIへ背を向けた。
「いいえ。彼女はもう、ただの民間人ではないわ」
ジョディさんは冷たくそう言うと、威嚇射撃なのか一発私達の足元に銃弾を撃ち込んだ。
「ジョ、ジョディさん・・・!」
慌てるキャメルさんとは裏腹に、ジョディさんは酷く落ち着いた様子で。
それをキツい目付きで睨む零に支えられながら、視界が霞んでいくことに気付いた。
「何もそこまでする必要は・・・っ」
「キャメル。彼女を生かしておいてはいけないの。今回の証人保護プログラムのことで、契約は絶対よ」
凛とした雰囲気と声で、キャメルさんに有無を言わさない。
それでもキャメルさんは、ジョディさんを何とか止めようと必死で。
「・・・!」
そんな中、私を支える零は、FBIから視線を外すと同時に顔色を変えた。
耳元に手をやった様子を見れば、組織か公安か、どちらかからの連絡だろう。
それがどちらかからなんて、最早どうでも良い。
どうせ耳に入った情報は、どちらからでも同じ事だ。