第106章 ゼロへ
場所がバレたということは、ここにずっといることもマズイか。
追い付かれる事は問題ではないが、ここに留まっていたという事実が良くない。
だとすれば移動が先か。
ただ、無意味に走れば撃たれる可能性もある。
それを懸念しながら、確認した組織のスナイパーから狙われにくい場所を通って、奥へと進んで行った。
「・・・・・・」
けれど、進めば進む程、人の気配を感じることができなくて。
確かに入り組んだ場所ではあるけれど。
そこまで組織の人間が私を追い詰めないことがあるだろうか。
段々とよく分からない不安が大きくなり、倉庫の物陰から様子を伺おうと身を乗り出しかけた、その時だった。
「手間を掛けさせないでくださいと、言ったはずですよ」
気配は無かった。
意識も配っていた。
それなのに。
いつの間にか私の背後には、バーボンがいて。
彼が突き付けているであろう銃は、後頭部に押し付けられていた。
「その先へ、出てください」
「・・・・・・」
バーボンのままということは、ベルモットやジンと通信が繋がっているのか・・・気付かないだけで近くに彼らがいるのか。
彼の指示通り、物陰だった倉庫と倉庫の隙間から出ると、ゆっくり後ろを振り向きかけた、が。
「動かないでください」
カチャリと音を立てると、それは更に後頭部へと押し付けられた。
彼がその引き金を引くとは思えないけれど。
今はその指示に従う他ない。
本当は彼の姿を最後に一目見たい。
本当は彼の優しい笑顔を見たい。
本当は彼の冷たい手を感じたい。
本当は・・・温かな、優しい声で、名前を呼んでほしい。
叶わない願いばかりが溢れ出る中、それを零していくように目を伏せると、突然背中に軽い衝撃を受けた。
「!」
体を固定するように、彼が後ろから抱きついている。
衝撃は、その時体がぶつかり合ったもので。
その腕の力は今までのどんな時のものより強く、痛くて。
僅かに耳にかかる彼の少し荒ぶった息が、怒りやその他諸々の感情を表しているようだった。