第106章 ゼロへ
「いッ・・・」
道無き道を進む中、ガラスの割れた窓枠をくぐろうとした時、腕を切ってしまって。
そこから溢れ出す血液を見ては、眉を寄せた。
本当に、ここを通る日が来るなんて。
最初に話を聞いた時は現実味がなかったけれど。
不思議な感覚と共に、少し前の記憶を呼び起こしながらようやく外へと出ると、陽の眩しさに僅かに目が眩んだ。
・・・とりあえずここまで来れば。
そう思いながら立ち上がり、ふと顔を上げた時だった。
「・・・?」
遠くの倉庫上で、キラリと何かが光った。
以前来た時には気づかなかったが。
何て事ない、ただの光だと思えばそうなのだけど。
この光を・・・私は知っている気がして。
そうだとすれば、ここは。
「!」
危険だ。
そう察知し、行動できたのは本当にギリギリのことで。
血が溢れ出す腕を抑えながら物陰に隠れると、先程まで立っていた場所に銃弾が音を立てて撃ち込まれた。
やはりさっきの光は、スコープに反射したものだ。
だとするとここは既に、組織側のエリア内でもあるという事で。
「・・・・・・」
逃げ場はないと言っていたが、あの言葉に偽りは無いようだ。
まあ、零に言った通り、逃げるつもりはないけれど。
・・・今は逃げたような形になってしまったが。
「・・・っ」
痛い所だらけだ。
腕も、胸も、足も・・・心も。
でもあと少し。
あと少しで・・・全てが終わるはずだ。
細く長く息を吐きながらポケットに手を突っ込み、赤井さんから受け取っていたある物を取り出すと、手の平に置いて暫く見つめた。
組織側のスナイパーが私を見つけたということは、バーボンやジンがここに来るのはすぐだろう。
覚悟はもう、決めていたから。
迷いや躊躇無く、その手の平に置いていた物を口に放り込むと、グッと飲み込んで。
それを赤井さんへとメールで合図すれば、最後の取引へと事を進めた。