第106章 ゼロへ
ベルモット。
真っ黒な服に身を包んだ彼女は、銃を向けたまま私達に微笑みかけていて。
その顔立ちは相変わらず綺麗だが、そのせいか彼女の笑みは悪魔のようにも見える。
「その子、置いてってもらえるかしら。やっぱり声帯は本人じゃないとダメみたいだから」
どうやら組織側も、色々試したようだ。
思い返せば、彼女が何度か私に接触してきたのも・・・このせいかもしれない。
「悪いけど、あなた達が彼女に接触できるのはこれっきりよ」
ジョディさんはベルモットにそう言い返すけれど。
空気が、痛い。
吸うのも、感じるのも。
ピリピリと体を刺すように痛い。
「・・・キャメル。貴方達は先に行って」
「で、でも・・・っ」
キャメルさんの気持ちは私も同じだ。
彼女を置いていくのは危険な上、形勢も悪くなる。
「・・・・・・」
・・・少し予定は狂うかもしれないが、彼なら何とかやってくれると信じて。
「キャメルさん、下ろしてください」
一度、私が代わりになるしかない。
彼の目を見て、何も言わさないつもりの強い口調で言えば、それを察したのか少したじろいだ後に私をそっと下ろした。
「・・・ジョディさん」
彼女の肩に手を置き、アイコンタクトで会話を進めて。
ダメだとは言っているように見えたが、真っ直ぐな視線を返すと彼女は一度視線を伏せた後、塞ぐ道をそっとあけた。
「・・・エリア内から出てはダメよ」
通り過ぎ際、囁くような声で最後に忠告されて。
小さく頷きながらゆっくり足を進めれば、ベルモットは構えていた銃を下ろした。
「随分素直ね?」
「私を置いていけと言ったのは貴女じゃないですか」
不服な表情を向ければ、彼女は嬉しそうに笑顔を返して。
「折角の綺麗な顔が台無しね」
目の前に立てば、私の顔の傷に触れながらそんな事を言ってきて。
彼女が言えば嫌味にも聞こえるが。