第106章 ゼロへ
「いずれにせよ、如月さんが狙いなのは間違いないですがね」
まだ疑問ばかりが残るが、私の目的はそこではない。
公安にもFBIにも悪いが、大事な鍵の一部に私が必要なことは、正直私には知った事ではなくて。
FBIとは取引のことがあるからそれなりに協力はするけれど。
もう十分過ぎるくらいには、赤井さんに振り回されている気がする。
「着きますよ」
色々とあったせいで、大幅に時間は超えてしまったが、何とか赤井さんに指示されていた場所までは辿り着いて。
港に近い、工場跡地。
以前もここには来たことがある。
嫌な思い出しか残っていない場所の一角で車を止められると、キャメルさんと一緒にそこから降りて。
「・・・ここで、ジョディさんと合流するはずなんですが」
そう呟くキャメルさんの背中に付くように、辺りを警戒しながらゆっくりと足を進めた。
海が近いせいか建物の中は湿っぽく、物が少ないせいで音が響きやすい。
ちょっとした足音でも、居場所が簡単に分かってしまう。
「・・・・・・」
息が苦しい。
それはこの空気のせいなのか、緊張感のせいなのか。
「!」
浅い呼吸の中足を進めていると、少し離れた場所から軽い金属音が響いてきて。
キャメルさんと音のした方へ目を向ければ、そこには物陰から顔を出すジョディさんの姿があった。
手には銃が握られていて、恐らくさっきの音は、近くの鉄パイプとそれを軽く触れ合わせた音だったのだろう。
「随分遅かったのね?」
「色々ありまして・・・」
そこに駆け寄り、キャメルさんが軽く事情を説明する間、ジョディさんは落ち着いた様子でそれらを聞いて。
「・・・そう」
説明し終えた後も、彼女は一言そう呟いただけだった。
・・・全てを知っている私達は、そういう反応になってしまうかもしれない。
ここに来てしまえば、こちらのものだと思っていたから。