第106章 ゼロへ
「だ、大丈夫ですか・・・っ」
「はい・・・」
キャメルさんも頭を下げながら私の安否を確認すると、慎重に目の前の車へと意識を向けた。
「・・・・・・」
真っ黒なセダン。
あれが公安の車だとは到底思えなくて。
だと、すれば。
「キャメルさん・・・っ!」
組織の人間だ。
誰が乗っているかは問題ではない。
今は奴らに近付くこと自体が危険だ。
「!!」
キャメルさんに声を掛けた瞬間、嫌な金属音と共に車に大きな衝撃が走った。
狙撃されている。
ただ、撃たれているのは目の前の車からではない。
天井から音がする、ということは・・・上から狙われている。
「如月さんっ、姿勢を低くしたまま踏ん張ってください!」
彼はそう言いながら、エンジンの回転数を上げて大きく車を回した。
その強烈な重力に耐えながら、指示通り姿勢を低くしたまま踏ん張って。
「・・・ッ」
車通りが少なく、そもそもあまり利用されることが少ない場所とは言え、このままでは危険だ。
私が降りて大人しく捕まれば良いのかもしれないが。
あの場所について、作戦を決行するまでは・・・そうもいかない。
「・・・組織の人間ですよね?」
体勢は変えないまま、僅かに頭だけを上げてキャメルさんに問えば、彼はハンドルを強く握ったまま一瞬視線をこちらに向けた。
「恐らくは・・・。でもどうしてここが・・・」
確かに、言われてみれば。
私がこの車に乗っている事を知るには、少し無理がありそうで。
発信機が付いているわけでもないだろうし。
「・・・・・・」
・・・発信機。
まさか、どこかで付けられた?
でもそんな隙はなかったはずだ。
あるとすれば・・・。
「・・・!」
こういう、嫌な予想程よく当たる。
スマホの発見機は反応を示さないが、それは仕掛けられた場所からも何故なのか推測できた。
靴の底に貼り付けられた発信機。
それを早急に潰しては、心拍数が上がるのをどうにか抑え込もうとした。