第106章 ゼロへ
「・・・やはり、彼の事を話している如月さんは表情が違いますね」
「そ、そうですか・・・?」
今、どんな顔をしていたのだろう。
それを意識してしまえば、ある程度は保ったものになってしまっていて。
数秒前の自分の表情が思い出せない。
「実は赤井さんも、如月さんの事を話していると、表情が変わるんです」
「赤井さんも?」
・・・意外。
というのは、そういう表情をすることもそうだけど。
「赤井さんが私の話をするんですか・・・」
「あ・・・ッ!わ、私から聞いたということは、どうか内密に・・・」
沖矢昴として、長く彼とは居たこともあったけれど。
正直、赤井秀一としての彼を知れた気にはなっていなくて。
「どんな事を話すか、聞いても良いですか・・・?」
それは単純な興味。
FBIとしての彼が、私を他人にどう話しているのか気になった。
ただキャメルさんは、どこか口ごもった様子で簡単に話そうとはしなかった。
「・・・如月さんの事を本当に大切に感じている、と我々が思うような事です」
具体的に話すには、言葉にしにくいということか。
確かに沖矢昴なら言いそうだけど。
赤井さんが・・・それもFBIの人に話しているなんて。
それだけ彼らを信頼しているということか。
「・・・!」
まるで零と風見さんのようだと、少し気持ちが緩んで。
ただその一瞬の気の緩みは命取りになる。
突然、視界に現れた車が目の前で止まったかと思うと、私達の行く手を阻むような形で道に対して垂直になった。
「如月さん、頭下げてください!」
先程までの僅かな緩い空気は、一瞬で緊迫したものに変わった。
いや、最初から緊迫はしていた。
それに少し慣れてしまっていたんだ。
悪い方向に。
「・・・ッ!!」
タイヤとアスファルトが擦れ合い、キュルキュルと耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、ゴムの焼ける焦げ臭い匂いが鼻を刺した。
どうやら車同士はぶつからず、無事に止まるには止まったようで。