第106章 ゼロへ
少なくとも今回の取引について、赤井さんとジョディさんとジェイムズさん、そしてコナンくんと博士と哀ちゃんは知っていることになるけれど。
もしかすると、それだけの人しか知らない可能性もある。
ーーー
「あと5分程で着くはずです」
数十分、車を走らせたところでキャメルさんは私に一度そう声を掛けた。
「・・・やっぱり、組織の人間の気配を感じませんね」
「油断はしないでください。奴らはどう接触してくるか分かりませんから」
キャメルさんは以前の事を思い出すように、表情を歪ませてはハンドルを握る手を強めて。
彼も私も、それを身をもって体験している為か、痛い程分かっている。
・・・私に関しては、一度ならず二度も体験している。
「怖く、ないですか」
「・・・?」
突然、キャメルさんは真っ直ぐ視線を前に向けたまま、そんな事を尋ねてきて。
何がと首を傾げれば、バックミラーで彼と視線を合わせた。
「組織の人間に狙われることが」
ああ、そういう事か。
なんて納得の言葉が浮かんで来るくらいには、もうそこにある恐怖というものは案外薄くて。
今は組織への恐怖よりは。
「・・・公安を裏切ったことの方が、怖いですかね」
風見さん、叱られてなければ良いけど。
彼は何も悪くないから。
「変な事を聞きますけど・・・どこが良かったんですか・・・」
表情を曇らせるキャメルさんを見ては、そういえば彼は零が苦手・・・というより、零がFBIを敵視し過ぎるせいで、互いの印象は良くなかったなと思い出して。
それにこの質問は・・・以前、赤井さんにもされた事がある事も。
「どこ・・・」
全部。
そんなダラけた答えは駄目だろうか。
でもその答えが一番近い。
「彼だから、としか言いようがないですね」
FBIの人達には、あんな表情しか見せないから。
それに組織の人間は、バーボンや安室透しか知らない。
ポアロの人達も、コナンくんも。
彼らには知らない零を、私は知っているつもりで。
それを向けてくれる彼が。
好きだった。