第106章 ゼロへ
「出せ、キャメル」
「はい・・・!」
赤井さんは私を押し込むように座席へ座らせると、扉を閉める直前にキャメルさんへ声を掛けた。
・・・まだ分からない事だらけだが、知った所でどうしようもない。
やはり投げやりな気持ちになってしまうものだな、とため息をついては座席に体を預けた。
「・・・怪我、大丈夫ですか」
「え?ああ・・・大丈夫です。手当てはしてもらってますので」
キャメルさんの質問に、手足に巻かれた包帯へ目を向けては、さっきまでの出来事は一瞬の夢だったようにも感じて。
私はあくまでもFBIの駒だ。
公安の敵でも味方でもない行動に、FBIは仕方なく公安の人を散らす作戦にしたのだろうけど。
やはり気持ちは晴れない。
・・・それに、1つ気になっていることがある。
「あの・・・キャメルさん。聞いても良いですか?」
「私で答えられる事でしたら・・・」
僅かに戸惑った様子の彼を後部座席から覗き込むように見ては、その横顔に目を向けた。
「組織が動いている気配が無いのは、私だけですか」
これだけ公安やFBIが動いているのに、組織の気配を感じない。
私がただ鈍感なだけなのかもしれないが。
「それは我々も同じです。あまり今回の事は知らされていません」
そういえば赤井さんも、キャメルさんやジョディさんには、さっきまでの一連の流れを伝えていなかったと言っていた。
でもきっと、コナンくんは知っているのだろうな、と心の中だけで唇を尖らせて。
「とりあえず例の場所に行くという事以外、我々は・・・」
・・・行くことだけ?
という事はキャメルさんは・・・。
「着いてから、私のことについては・・・」
「いえ、何も聞いていません」
それすらも知らされていないのか。
赤井さんにとってはそれも作戦の内なのだろうが、流石に彼が少し不憫にも思えた。
「な、何ですか・・・何かあるんですか」
「いえ、私も聞いてません」
てっきりFBIでは共有済みなのだと思っていたけど。
情報が回れば、それなりにリスクも上がるという事か。