第106章 ゼロへ
「・・・赤井さんって、結構しつこいんですね」
「これは失礼した」
フッと鼻で笑うように息を漏らす彼を横目に、できれば自分で歩きたいと強く思って。
ただ、今は効率が悪いから大人しくはする。
彼の腕の中は、居心地が悪い。
それは決して風見さんの方が良かったという意味ではないが。
やはり零の腕の中が、一番落ち着く。
もう、戻ることはできないけれど。
「!」
小さな道を幾つも抜けた先で、颯爽とやってきた1台の真っ黒な車が私達の目の前で止まった。
「赤井さん!」
その車の窓が開くと同時に顔を出したのは、キャメルさんで。
どうやら車は乗り換えたようだ。
「君はキャメルと例の場所へ迎え。俺も準備をする」
そう言って私を下ろすと、後部座席からライフルバッグを取り出して。
「・・・分かりました」
返事をすれば、彼は私に背を向けた。
「赤井さん」
車に乗り込む直前、彼の背中に向かって声を掛けると、無言で振り向いては視線で、何かと問われた。
「本当に危ない時は・・・」
「そんな顔をするな」
皆までは言わせてもらえなかった。
それ程、酷い顔をしていたのか。
赤井さんにこれを言われるのは、何度目だろう。
「君も中々しつこいと、俺は思うがな」
そう言いながら、行きかけた体をこちらに引き戻し、私の目をしっかりと捕らえながら言葉を続けた。
「外しはしない。それに、万が一の状況にもしない」
スナイパーに狙われる獲物は、その目を直接見る事は殆どできないだろう。
そう思うと、これはある意味貴重な経験なのかもしれない。
この目で・・・あのスコープから、何人の獲物を見てきたのだろうか。
「我々、FBIが保証する」
その言葉はずっしりと重く感じて。
その保証は心強くても、晴れる気持ちは無くて。
何も言葉では返事ができなかったが、小さく頷けば、赤井さんはくしゃくしゃと私の頭を無造作に撫でた。