第106章 ゼロへ
「風見さん・・・っ、大丈夫ですか・・・!」
「大丈夫です。少しガラスで切っただけですから」
・・・ガラス?
風見さんのその言葉に後ろを振り向けば、さっきまで居た小屋のような場所からいつの間にか外に出ていて。
その小屋の一つの窓は、無惨にも割られていた。
あそこから・・・風見さんは私を抱えて飛び出したのか。
「降谷さんが窓ガラスに亀裂を入れてくれたので、この程度で済みました」
そういえば、何発かの発砲音が聞こえた。
あれは零が窓ガラスに向かって撃ったのか。
「急ぎますよ」
そう言って風見さんは、今度は私を横にして抱き抱えると、素早くどこかへと走り出して。
「怪我はありませんか」
「わ、私は大丈夫です・・・」
走る最中、風見さんは何よりも私を心配してくれた。
何度も私の体調を気にしたり、こまめに声を掛けてくれたり。
・・・私は、風見さんも裏切ったのに。
「私の事は・・・あまり気に掛けないでください」
だから、いたたまれなくなって。
風見さんが息を切らして走る中、そう言った。
けど彼は。
「そうはいきません」
力強く、そう返してきて。
「私の尊敬する大切な上司が、貴女を守りたいと言ったんです」
そう話す表情はあまり確認できなかったけれど。
声色で、何となく分かる。
「だから私も、貴女を守りたいと思ったんです」
そこにある信念は、私が大好きな人の物に似ていると。
恋愛感情や警察としての誇りではなく、単純な彼らの思いが、似ている。
・・・だから風見さんも、零の下で働けるのだろうなとも思って。
でも、私は。
「私は、もう・・・零の傍には居られません」
居る資格も、運命もない。
「それでも降谷さんは、貴女を探し続けますよ。何が何でも」
・・・そうだろうな。
だからFBIにこんな事を頼んだのだから。
「そして私も、全力で降谷さんに協力します」
・・・良かった。
ほんの少し、そんな感情さえ生まれた。
私が居なくても、彼を気にかけてくれる人は、こうしていることが分かったから。