第106章 ゼロへ
「ジョディさんが・・・貸してくれて・・・」
「何故?」
何故・・・何故だろう。
赤井さんに言われたから、なんて言えない。
でも私も理由は分からないから。
「穴、空いちゃって・・・」
無理があるのは分かっている。
でも、私が言いたくないという雰囲気は十二分に伝わっているはずだ。
「・・・もう一度聞く。僕から逃げた理由は何だ」
もう、それには触れられないと思っていたけれど。
・・・やはり、疑問は残さないか。
「言えない・・・」
正直に話すことは勿論、もう変に誤魔化すこともできない。
今の私には、本当にそうとしか言えない。
「・・・言わなければ、このままひなたを監禁すると言ってもか」
「か、監禁って・・・」
したところで、何も出てはこないのに。
それにそんな手荒なこと、公安がするはず・・・。
「これは僕としてではない。バーボンとしてだ」
「・・・ッ」
無意識に向けていた視線が、彼と合ってしまった。
その目つきは鋭く、簡単には離してくれないものになっていて。
「・・・ひなた」
名前を呼ばれる度、心臓に彼の指が食い込むようで。
「頼むから・・・僕の前から消えないでくれ」
さっきまでの雰囲気が嘘のようで。
その切なそうな声や表情は、本当に零のものなのか。
それすらも不安になるほど、彼も私も様子はおかしくて。
「約束したはずだ」
・・・した。
確かにその約束はした。
でも私は破った。
そして、まだ破るつもりだ。
そんな人間が、彼の傍に居ていいはずがない。
「・・・零」
でも、まだ隣に居たいと思ってしまう。
手当をする時に触れた彼の手は、今日も冷たくて。
その冷たさをずっと感じていたい。
彼の優しさを、感じていたい。
これからも、ずっと。
「・・・ごめん」
でも、それは叶わない願いだ。
もう変えることはできない。
兄も、赤井さんも・・・零も。
色んな覚悟をしたはずだ。
私も、覚悟は決めてきた。