第105章 意図的
「着て。スピードを緩めるから飛び降りるの。降りたら近くで隠れられそうな場所で待機していて」
飛び降りる・・・?
車から・・・?
「わ、私だけですか・・・」
「大丈夫よ。後で私も合流するわ」
一体、赤井さんに何を指示されたのだろう。
戸惑いしか残らないが、今は言われたことをやるしかない。
慌ててジョディさんのジャケットで身を包むと、ドアハンドルに手を掛けた。
「今よ」
声はまだ潜めているけれど。
それでも力強さはある声で。
背中を押すように、合図をされた。
「・・・ッ!」
スピードを落としてはいたけれど。
それでも走っている車から飛び下りるのには、流石にそれなりの衝撃があった。
ゴロゴロと体は勝手に転がり、近くの塀へと体を強く打ち付けた。
痛みはあったけれど、あの時の・・・観覧車内部でのことを思えば、これくらい大したことではない。
今はとにかく起き上がって、隠れなければ。
そう自分を奮い立たせるように、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・っ、ぃ・・・」
・・・痛い。
でも早く。
幸い擦り傷程度の傷だったが、これを見れば零は怒るだろうか。
・・・怒る、だろうな。
電球が割れて顔に僅かな傷を作った時でさえ、あそこまで怒られたのだから。
でもきっと次に会う時は、こんな傷では済んでいないから。
この傷も気にはならないだろう。
・・・なんて。
思っていたのに。
「ひなたッ!!」
まだその声を聞く心構えはできていなかった。
それなのに。
こんな所で。
「れ、零・・・」
立ち上がった目の前には、彼が立っていて。
「大丈夫か・・・っ」
こっちに、駆け寄ってきていたから。
「・・・っ」
思わず、逃げた。
「ひなた!」
ただでさえ、彼とは体力も筋力も差がある。
その上、私はこんな体だ。
走りで勝てるはずがないのに。
それでも今は彼に会う訳にはいかないのだと、彼に背を向け必死に走って逃げた。