第105章 意図的

「･･･そう、か」

イが何かの一部で、カタカナにした意味があるとすれば。
もしかすると、これは漢字の一部ではないだろうか。

特定の漢字であればもう少し何かが書かれているだろうが、これには他に何も無い。

つまり部首の、ニンベンを表しているのでは。

「ジョディさん」

･･･子どもの頃、兄から少しだけ聞いたことがある。
警察用語には漢字の部首が使われることもあるのだと。

その頃はまだよく分からなかったけど。
今思えば、あの頃から兄は警察官を目指していたのかもしれない。

「靴の予備、ありますか」

兄から聞いた話では、ニンベンには偽造事件の意味がある。

つまり･･･靴を脱ぐなということを偽造、反対のことを実行しろという意味ではないだろうか。

「ええ、私ので良ければ」

彼女も色々と察してくれたのか、深くは聞かないまま私の質問にだけ答えてくれた。

なるべく声を潜めて。
なるべく音を立てないように。

盗聴器は確認できないけれど、万が一に備えて。

「･･････」

この解釈が合っているかは分からない。
けど、今は出来る行動をするしかない。

ここまで来たら、なるようにしかならないから。

ジョディさんから借りた靴を履くと、赤井さんにもう一度メールを送った。

今回は作戦完了という意味で、×印1つを。

「･･･よく分かったわね」
「合っているかは分かりませんけど」

そう思うと、探偵とは本当に凄い人なのだと思った。

自分の考えに自信を持つということは、想像以上に難しい。
増してやそれが、殺人犯を特定する推理だとしたら。

･･･私には絶対に無理だ。

「でも、ここから･･･」

どうするべきか。
そう呟こうとした時。

今度はジョディさんのスマホが振動を始めて。
それはメールの着信ではなく、どうやら電話だったようで。

「･･････」

彼女は何も言わずそれに出ると、数秒で電話を切ってしまった。

きっと相手は赤井さんだろうが、何だったのかとアイコンタクトで尋ねると、何故か彼女は徐ろに自分の着ていたジャケットを私に差し出した。