第105章 意図的
「流石、日本の警察官は優秀だな」
・・・皮肉なのだろうか。
それとも純粋な賞賛なのか。
「君には、本当のことを話すべきだろう」
本当のこと、か。
「確かに、君の母親が君をパスコードの一部に設定したようだ。だがそれは、我々には知らされなかった」
知らされなかった・・・ということは、これは母の独断だったということなのか。
まあ、知っていれば今頃こんなことにはなっていない。
「唯一潜入中に気付いたのが、日本から潜入していた、君の兄だという男だ」
・・・兄が。
急に私へポルシェのことを伝えたりしていたのも、そのせいだろうか。
「・・・だから兄が母を撃ったとか・・・言いませんよね」
何となく、察していた。
兄がパスコードになる暗号を作っていたことを知った上で、話を聞いていれば。
・・・事故ではなかった可能性がある、と。
「残念ながら、君が察した通りだ」
だとすると、何故私のスマホに暗号を仕掛けていたのかも、何となく分かった気がする。
「君の体だけでは開かないよう、彼は別の方法で何重にもロックを掛けた。その一部が君にも届けられていたということだ」
きっと兄は暗号を私に送ることで、公安の誰かやFBIに私の存在を知らせて、保護させたかったのだろう。
だからわざわざ、一部をスマホに仕掛けておいた。
・・・兄が亡くなった時、私に手紙を出すようにしていたのもそのせいかもしれない。
それに気付くには、遅過ぎたけど。
「互いに潜入中で正体を知らない者同士、そこですれ違いは起きた」
・・・事故だと聞いていた背景には、そんな事が隠されていたのか。
でもきっと零も、事実を知ったのは昨日今日のことだろう。
もっと早くに分かっていても、不思議ではなかったのに。
「これは我々FBIの失態だ。本当に悪かった」
確かに民間人をこういう事に巻き込んだという点では、FBIにとって失態だろうな。
ただ、FBIである母を撃った兄にも非があるのでは。
「でも何故、母は私を?」
そもそも、私は母の顔を覚える前から施設に入っていた。
そんな私を何故使ったのか。