第105章 意図的
「ひなた・・・っ」
被っていた帽子を取り、後部座席から移動して外へ出ると、零は僅かに動揺を滲ませた声で私の名前を呼んだ。
「ごめん・・・」
「ダメだ、ひなた・・・っ」
彼もどこか分かっているのだろう。
自分が止めた所で、私は止まらないと。
私もFBIからの指示があった以上、動かない訳にはいかない。
「私がいれば、公安の人達が困るから」
「それは違う。それはひなたがこちらを離れる理由にはならない・・・っ」
こんな時でも、今日は意外と冷静なんだな。
赤井さん相手には、やはり少し欠いている部分もあるけれど。
「・・・ごめん」
今はそうとしか言えない。
FBIとの取引のことは言う訳にもいかない。
覚悟は決めてきた。
ずっと、前から。
「・・・零」
運転席側からこちらに来ようとしている彼の元へ走って近寄ると、素早く首に腕を回し顔を近付けて。
「愛してる」
そう言って、彼の唇に自分の唇を重ねた。
きっとこれが最後。
そして彼と会うのは次で最後。
次に彼と出会う時は・・・。
「ひなた・・・ッ」
「風見さんの所に行ってあげて」
突き放すように。
ついて来てはダメだと言うように。
彼の体を軽く押しながら離れると、赤井さんの車へと走った。
「ひなた!」
・・・呼ばないで。
呼ばれると、辛くなる。
色々言いたい事をグッと飲み込んでは、急いで車へと乗り込んで。
「赤井さん!」
急いで車を出して欲しいと彼に頼めば、赤井さんは何も言わず車を勢いよく発車させた。
その時、零がどんな顔をしていたのか分からない。
見るのが怖かったから。
見てしまえば、心が恐ろしく揺さぶられそうだったから。
「大丈夫?」
「!」
僅かに乱れた息をジョディさんの隣で整えていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきて。
そこに目を向ければ、ジョディさんとドアの間から顔を出した、コナンくんが目に飛び込んできた。