第105章 意図的
「・・・風見。例の件はどうなってる?」
車をどこかへ出発させながら、彼はハンズフリーイヤホンで風見さんと会話を始めて。
車の後部座席で部屋着に彼のスーツを羽織り、その上車内なのに帽子を被らされているこの状況に、ようやく脳がおかしいと判断をした。
相変わらず目覚めの悪過ぎる自分に、溜め息が止まらない。
「・・・!」
風見さんと何かの会話をしている彼の背後でキョロキョロと辺りを見回していると、唯一手にしていたスマホが静かに振動した。
彼がこちらに気を取られない内に中を確認しようと画面を開けば、見覚えのないメールアドレスから一通のメールが届いていて。
更に帽子を目深に被り、彼とミラー越しにも視線が合わないようにすると、早速そのメールを開いてみた。
『Dnttk f orsoso' aeofyu he.』
メールには、短いその文章だけが書かれていた。
こんな文章を送ってくるのは、1人しかいない。
「・・・・・・」
赤井さんだ。
彼とメールでやり取りする際、時にはこんな簡単な暗号を使うこともあった。
でもそれは私が直ぐにメールを確認し、削除できる場合でのみ、と決まっていた。
事前に連絡も無く、いきなりこれを送ってきたということは・・・。
私がたった今、部屋を出たことを知っているのか。
それを零が知っているかどうかは分からないが。
・・・いや、今はそんな事どっちだって良い。
とりあえず暗号を読んでメールを消さなければ。
ようやく慣れ始めたその暗号を見つめては、必死に頭の中で解読した。
「・・・?」
しかし解読できた内容は、少し理解し難いもので。
思わず僅かに首を傾げた。
靴を脱ぐな。
その暗号には確かに、そう書かれていた。
零の行動もそうだが、赤井さんの指示も意味が分からない。
とりあえずメールを削除しながら、履いてきたいつもの靴に目をやって。
見た目には何の違和感も無いが、私の知らない内に何か仕掛けられたのだろうか。