第105章 意図的
「何があったの・・・?」
探し物をするような中身ではないはずだけど。
そう小首を傾げながら、彼が手にするスマホを横から覗き込んで。
「この名前、覚えがあるか?」
私が見やすいように彼がスマホの画面をこちらに向けると、そこには見覚えのない人の名前が表示されていた。
「・・・藤旦真歩?」
とうだん・・・まほ。
一応口にはしてみたが、思い当たる人はいなくて。
でも何故、この人が登録されているのか。
そもそもこの人は誰なのか。
彼から質問を受ける度に分からなくなる。
「これは冬真だ」
「・・・?」
これが、兄?
ますます分からない。
登録されているのは恐らく女性だと思うが。
「本田冬真のアナグラムになっている」
アナグラム・・・聞いたことがある。
名前等を並べ替え、別の名前にするあれか。
「つまりこれが鍵の一部だ」
「か、鍵・・・?」
僅かに緊迫するような空気に、自然と心拍数が上がっていく。
・・・まさかずっと、何か大事なことがこのスマホに入っていたのだろうか。
「何故もっと早く気付けなかったんだ・・・」
そう悔しそうに自分へ呟く彼の横顔を見て、胸が締め付けられた。
私を狙う理由を、浅はかにしか考えていなかった。
・・・組織が私を気にした時点で、もっと自分の事を調べれば良かった。
そうすれば、彼にこんな顔をさせずに済んだかもしれないのに。
「・・・ごめんなさい」
「ひなたが謝ることではない。見落とした僕が悪いんだ」
・・・見落とすと言っても。
そもそも何故、零は突然私のスマホに何かあると思ったのか。
「冬真がひなたに何らかの鍵を預けた事は間違いがなかったんだが、ずっとそれが見つけられなかった」
さっきも口にしていたが、そもそもその鍵とは何の鍵なのか。
私は託された覚えも無ければ、何の事か検討もつかない。
「・・・少し前のことから話をしよう」
私の感情が表に出過ぎていたのか、彼は先程までの緊迫した空気を一度抑え込んで。
一息間を作った後、冷静にゆっくりと、静かにそう切り出した。