第105章 意図的
「・・・スマホが壊れる頃、変わったことは無かったか?」
「変わったこと・・・?」
何をもって変わったと言えるかは微妙だが、特にこれといって思い出せることはなくて。
「どんな些細な事でも構わない」
まるで警察からの取調べのようだ。
あながち、間違ってはいないと思うが。
・・・敢えて言うなら。
「兄と会う機会が、突然減ったかも」
それまでは一週間に一度くらいのペースで会っていたが、スマホが壊れる数ヶ月前から殆ど会わなくなっていて。
私も忙しかった事もあり気にはしていなかったが・・・今思えば、あの頃から兄は潜入先で危険な思いをしていたのかもしれない。
「・・・その連絡先、以前と変わりなかったか?」
「変わってなかったと思うけど・・・」
そこまでは流石に確認していなくて。
そもそも、比べる前のデータも無い。
以前誰がどんな電話番号で、どんなメールアドレスだったかまでは残念ながら覚えていない。
「悪いが、スマホを貸してくれないか」
彼にそう言われ、しまい込んでいたスマホをカバンから取り出し手渡した。
普段は零から貰ったスマホを使っている為、あまり使うことはないけれど。
「・・・・・・」
暫く彼がスマホを操作する中、カップに入ったコーヒーを飲んでは昔のことを思い出して。
兄の最後のメールは『ありがとう』の一言だけだった。
あれについては何度も考えたが、本当に素直なお礼の意味として受け取って良かったのだろうか。
それに、私にジンのポルシェのことを伝えていた事も気にはなっていた。
あの話があったから、私は組織のことに首を突っ込む事となった。
逆を言えば、あの話をされなければ、零の報告通り交通事故で亡くなったという話を恐らく信じたのに。
・・・今更になって、根本の疑問を掘り返されるなんて。
「あった・・・っ」
「?」
スマホを触っていた零は突然小さく声を上げると、何故か僅かに興奮した様子でスマホを持つ手を震わせた。