第105章 意図的
「お兄さん・・・冬真についてだが」
・・・きた。
生唾を飲む感覚で体を強ばらせると、キュッと軽く手を握って。
「最後のメールより以前のメールが、殆ど残っていないのはどうしてだ?」
「・・・?」
もう1年以上前の事にはなってしまった。
兄から貰った『ありがとう』という一言だけの最後のメール。
彼やコナンくんと初めて会った時、そのメールについては確かに話したが、それ以上のことは話していなくて。
前のメールが殆ど残っていないことも彼らには話したことがなかったが、その事はきっと、私のスマホに色々仕掛けた時にでも見たのだろう。
「どうして・・・?」
「・・・少し、気になっていたんだ」
彼の返答には微妙な間があった。
それが何を意味しているか分からなかったが、今は彼の知りたい事を素直に喋ることにして。
「兄から最後のメールを受け取る半年くらい前に、スマホを壊したの」
その時、幾つかのデータは拾うことができたが、メールのデータだけは復旧できなかった。
でも特に残しておきたい内容も残っていなかった上、連絡先のデータは復旧できた為、そのままにしておいただけの事で。
「どうして壊したんだ?」
何故零がそんな事を聞くのか分からないが、今は答えるしかない。
昔の記憶を追っては、当時のことをぼんやり思い出した。
「特に何もしてないけど、急に電源がつかなくなっちゃって。そのスマホは修理ついでに別のことに使ったけど・・・」
それはジンやウォッカに初めて接触した時、ナビ代わりに使っていたあのスマホです、とまでは言わなくて良いだろうか。
「ということは、新しいスマホにしたのか?」
「新しいというよりは、兄が使っていた物を貰って・・・」
・・・まさか、あのスマホに何かあったのだろうか。
いや、あればとっくに零が気付いているか。
「そのスマホ、冬真から貰った時は初期化された状態だったか?」
「う、うん・・・データを移行する時に確認したから初期化はされてたよ・・・」
食い入るように質問をする彼に圧倒されながらも、彼の目を見ながらそう答えて。
一応、機械には強いから。
初期化されていたかくらいは私にも分かるけど。
結局、彼が何を知りたいのかまでは、全く分からなくて。