第15章 謎特急
「まあ、変装させてくれたのは今回、僕の代わりにあの男に化けてくれた仲間ですが・・・君がここに現れたということは君に恐怖を与える効果は十分にあったようだ」
ポアロで働いて、探偵として働いて。
そして組織の一員としてもしっかり働いていたなんて。
探偵業を暫く休むと言ったのはこの為だったのだろうか。
もしかして私は、組織に潜入していた兄と繋がりがあったから・・・ただ近付かれただけなのだろうか。
そう思うと、もう何も感じられなくなってしまいそうで。
「では、手をあげて移動しましょうか。八号車の後ろにある貨物車に」
口を塞がれているのもあるが、息苦しくて仕方ない。
だんだんと近付く気配に、息を飲んだ。
「さあ、その扉を開けて中へ」
近くなった声に、更に緊張感が増した。
「ご心配なく。僕は君を生きたまま組織に連れ戻すつもりですから」
生きたまま、とは。
まるで殺すことが前提だったような言い方。
「この爆弾で連結部分を破壊してその貨物車だけを切り離し、止まり次第僕の仲間が君を回収するという段取りです」
仲間、という言葉にどこか絶望のようなものを覚えて。
私は一体、透さんの何だったんだろう。
「その間、君には少々気絶をしてもらいますがね。まあ、大丈夫。扉から離れた位置に寝てもらいますから爆発に巻き込まれる心配は・・・」
「大丈夫じゃないみたいよ」
「え?」
「この貨物車の中、爆弾だらけ見たいだし」
爆弾だらけ、という言葉に身の毛がよだった。
ここにいても大丈夫なのか、と訴えるように男の顔を見上げた。
それでも男は変わらず廊下に意識を集中させていて、こちらのことは気にもしていないようだった。
「どうやら、段取りに手違いがあったようね」
ということは透さんはこのことを知らされていないということか。
「仕方ない、僕と一緒に来てもらえますか」
「悪いけど断るわ」
その言葉の直後、扉を閉める音がした。
どうやら相手の女性が貨物車に閉じこもったようだ。
その行動はまるで自分から死にに行くようで。
まさか、ね。
と、動揺を抑えるように考えるようにした。
「ふっ、噂通り困った娘だ。少々手荒く、いかせてもらいますよ」
そう透さんが言った瞬間、口を塞ぐ男は扉に手をかけた。