第15章 謎特急
「それはどういう・・・」
言葉の意味を尋ねようとした瞬間、男に体を引き寄せられ、今度は後ろから手を回す形で再び口を塞がれた。
「・・・んっ!」
乱暴な人だな・・・と脳裏で考えながら男の顔を見上げた。
帽子を目深に被っていて顔はよく見えない。けれど、やっぱりどこかで会ったような気がするのは消えなくて。
「お目当ての人間のお出ましだ」
そう言われ、廊下に全意識を集中させる。
「さすがヘルエンジェルの娘さんだ。よく似てらっしゃる」
一瞬、時が止まったように感じた。
威圧感があるが、間違いなく透さんの声。
それは誰かに向けられているもののようで。
口を塞ぐ男の言葉で覚悟はしていたつもりなのに。
いざその時がくると緊張と恐怖が湧き上がってくる。
改めて自分を殺すように気配を抑えた。
「初めまして。バーボン、これが僕のコードネームです」
心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走った。
聞こえてきたのは、あの時ポルシェから聞こえてきたお酒の名前。
「このコードネーム、聞き覚えありませんか。君の御家族とは会ったことがあるんですが」
「ええ、知ってるわよ。お姉ちゃんの恋人の諸星大とライバル関係だった組織の一員。お姉ちゃんの話だと、お互い毛嫌いしてたらしいけど」
話し相手はどうやら女性。
話の内容までは理解できなかったが、あの言葉は聞き逃さなかった。
・・・組織、コードネーム。
その言葉だけ鮮明に突き刺さるように聞こえた。
透さんの言葉と合わせて考えると、それはもう答えが出ていて。
やっぱりあれはコードネームだったんだ。
「ええ、僕が睨んだ通りあの男はFBIの犬でね。組織を裏切った後、消されたっていうのがどうにも信じ難くて。あの男に変装し、関係者の周りを暫く彷徨いて反応を見ていたんです。おかげであの男が、本当に死んでいることが分かりましたけどね」
語り続ける透さんの言葉を必死にインプットした。
なんの為という訳ではなかったけれど、自然と体がそうしていて。
彼の口から出ているとは思えない言葉に、吐き気すら感じた。