第105章 意図的
「ダメか?」
・・・答えの分かりきった問い掛け。
それでも、私の言葉で答えを聞きたいのだろう。
だったら、と。
「ダメって言ったらどうするの・・・?」
恐らく彼の期待していた言葉とは違う言葉を吐けば、少しは困らせることができるだろうか。
別に困らせたい訳ではないが、私ばかりが驚かされるのはどこか癪だという、妙な張り合いが出てしまったから。
どうするのだろうかと僅かに視線を向けると、彼は笑顔を崩さないまま私の手を握って。
「OKが出るまで挑戦するさ」
そう、サラリと言ってみせた。
「時間を掛けても、何度でも」
そして、その言葉がチクリと刺さって。
彼を困らせたつもりが、結局困ったのは自分で。
・・・私にその時間が残されていれば良いけど。
「ひなた」
私の視線を呼ぶように名前を口にされれば、自然とそれは彼に向いていて。
相変わらず綺麗で吸い込まれそうな瞳に見つめられると、尚更心中を読まれている気になった。
「君を守り抜くと、誓う」
私の手を取る彼の手の力が強まって。
穏やかな笑顔ながらも、そこには真剣さも詰まっていて。
「僕が命にかえても、守り抜く」
彼の言葉が、温かく、ふわふわした気持ちにさせる。
けれど同時に、隠しきれない罪悪感も顔を出す。
「・・・ありがとう」
私が彼に向けた笑顔は、素直な笑顔だ。
でもそれがどんな笑顔になっているかは、自分では分からなくて。
「ずっと、君の傍にいると誓う」
・・・神の前で嘘をついてはいけない。
真実だけを口にしなくてはいけない。
だから。
「私も、命尽きるまで・・・傍にいるよ」
そう、彼に返した。
甘過ぎたこの時間は、どうにも私を狂わせる。
どちらからとも言えないキスをすれば、背徳感に襲われて。
その後彼から何度も言われた、綺麗だという言葉に動揺させられながら、着替えを終えた私たちはようやく帰路に着いた。