第105章 意図的
「・・・!」
どちらかと言えば、彼を驚かす側だと思っていたのに。
カーテンが開かれた瞬間、驚いたのは私の方で。
「・・・やっぱり、似合ってるな」
穏やかな笑顔で私を見る零は、いつの間にか真っ白なタキシードに身を包んでいた。
彼の言葉をそのまま返したい気持ちでいっぱいだったが、あまりにも画になるそれに言葉を失ってしまった。
「どうした?」
小首を傾げながら私の目の前に来た彼が、あまりにも眩しくて。
・・・格好良い。
なんて思ってしまうのは、はしたないだろうか。
いや、でもこれは。
思わざるを得ない見た目だ。
「・・・格好良過ぎるなって思ってただけ」
ああ。
なんて甘ったるい言葉を吐いてしまったのだろう。
でも本音なのだから仕方が無い。
「ひなたも、綺麗だ」
・・・私達にこういう甘い時間は似合わない。
けれど似合わないからこそ、こういう時間が本当に大切に感じる。
平和ボケしてしまいそうな程に。
「行こう、ひなた」
「どこに・・・?」
突然彼に、そう言われながら手を差し出されて。
そこに手を重ねるのだという事を何となく察しながらも、疑問符を浮かべてそっと手を乗せた。
「ここは隣に小さな教会があるんだ」
スタッフの人達がドレスの裾を持ち上げると、彼は私の手を引いて誘導し始めて。
教会、と聞けば流石の私も察しがついた。
そこで何をするつもりなのか。
誘導されるまま、中で繋がる教会へと移動すると、真ん中に二人で向かい合うように立って。
スタッフの人達が姿を消したのを確認すると、彼は私の目を見てフッと微笑んだ。
「・・・二人だけの結婚式、という事にしようと思うんだが」
そう、だろうなとは思っていたけど。
改めて口にされると、どこか恥ずかしくて。
彼の目を見ていられなくなって。
思わず視線を逸らしては下に落とした。