第105章 意図的
「・・・これ、は」
「僕の我儘を聞いてくれるか?」
このデザインは、と言いたい私を分かった上で、彼は何度目かのその言葉で蓋をした。
・・・このドレスだと、肩が出てしまう。
「・・・っ」
つまりは。
「では奥様、こちらへどうぞ」
肩の銃創が、見えてしまう。
折角綺麗な衣装で身を包むのに、彼にそれを見せるデザインは避けたかった。
きっと零も、それを察したはずで。
でも彼は恐らく、敢えてこのデザインにしたのだろう。
「は、はい・・・」
彼の我儘だと何度も言われてしまえば、私は何も言えない。
何もかも分かった上で言ってくる彼は本当に意地悪だ。
スタッフに案内されるまま、私は試着室へと足を進める他なかった。
ドレスを試着する場所だけあってか、少し広めのそこでスタッフの誘導通りに着替えていると、小さな違和感に気付いた。
「・・・・・・?」
違和感、と言うよりは気付きだろうか。
自分が気にしているからこそ、それにはすぐに気が付いた。
スタッフの人達が、あまり私の前へ来ない。
来たとしても、なるべく顔を上げない。
私の肩に見られたくないものがあると、最初から分かっているように。
・・・まさか、彼が事前にスタッフの人達へ伝えていたのだろうか。
でも、彼ならしていそうだ。
「すごく、お似合いですよ」
着替えが終わると、メイクやヘアセットまでしてくれて。
最近はここまでしてくれるのか、それともこれも彼が手配済みなのか。
セットし終わった髪が肩へと流れるようにしてあり、上手く傷を隠しているのも、彼の要望なのか。
見せたいのか見せたくないのか。
少し天邪鬼にも感じる彼の行動に、思わず少し笑いが漏れた。
「開けますね」
「・・・はい」
重たく感じるドレスは、きっと幸せの重さなのだろう。
彼が選んだドレスに身を包むというのが、こんなにも嬉しいだなんて。
着る前までの不安はいつの間にか取れていて。
ちょっとした緊張感を覚えながら立っていると、目の前のカーテンはゆっくりと開かれた。