第105章 意図的
「あ、ありがとうございます」
・・・そうだ。
彼に言われたじゃないか。
今日は彼の妻として歩いてくれと。
「奥様のことが大好きなんですね」
「・・・え?」
店員さんにそれが滲み出る程、彼の顔に出ていたのだろうか。
・・・そうは思えないけど。
「決まったか?」
「あ・・・うん」
幾つか決まっていた食器を示せば、彼はそれらを手に取って迷わず全てを購入した。
店員さんのお礼を背中で受け取りながら店を出ると、少し気温の上がり始めた外気に、外なんだという当たり前のことを実感して。
荷物を全部彼に持たせてしまっていることが気になりつつも、帽子を被り直しては一歩を踏み出そうとした時。
「・・・!」
右手に、僅かに冷たい感触を受けた。
それが何なのかは、勿論すぐに分かって。
「最後にもう一つ、僕の我儘を聞いてくれないか」
手を繋がれたかと思うと、彼は振り向きながらそう言ってきて。
もう一つ、なんて言っているけれど。
今までの行き先が全て彼の我儘だったとは、勿論思っていなくて。
「・・・っ」
心臓が破裂しそうな程に脈を打っているけれど。
これは嬉しさで、そうなっているのか。
それとも罪悪感で、そうなっているのか。
ーーー
「・・・ここって」
再び車で移動し、連れられるがまま来た場所はまさかの所だった。
「ああ、見ての通りだ」
確かに、誰が見てもここは何をする場所なのかは分かる。
・・・分かる、けど。
「き、着るの・・・?」
「着なければ来た意味がないだろう?」
何の準備も無いのに。
特に心の。
それでも彼は私の肩に手を添え、店内へと足を進めた。
「いらっしゃいませ」
中に入れば、数名のスタッフが出迎えてくれて。
その後ろには、外で見えていた以上の物が並んでいた。
純白で、綺麗な、幸せを象徴するような洋服。
花嫁が身に付けるドレスが、ズラリとそこには並んでいた。