第105章 意図的
それでも今は何か探していなければ。
これ以上、不審がられては危ない。
そんな状態の中、キョロキョロと辺りを見回すように商品を見ていると、ふと目に入ったのは夫婦箸で。
本当はこういう物が使えれば良いのだろうな、と色々並ぶ中から一つを手に取って。
桜の模様が浮かぶそれは、まるで警察官である零を映しているように見えた。
・・・だから尚更、これは選ばない。
静かにそれを元に戻すと、無難に茶碗から探すことにして。
色々と手に取りながら選んでいると、ようやく気持ちの方がついてきているのを感じた。
少しは楽しいと思えている。
それを実感しながら、見て回っていると。
「お客様、食器をお探しですか?」
「え?は、はい・・・」
突然、店員さんから声を掛けられ、一瞬僅かに後退ってしまった。
「こちらにも素敵な商品が揃っていますので、宜しければどうぞ」
「ど、どうも・・・」
店員さんの笑顔に負け、誘導されるまま別の棚へとやってきてしまって。
確かに店員さんの言う通り、そこには素敵な食器が並んではいるけれど。
「どういった食器をお探しですか?」
「えっ・・・と、お茶碗を・・・」
「でしたらこちらが・・・」
店内とはいえ、零と離れてしまうことに僅かな不安を覚えながら店員さんとの会話を続けて。
数分、何気無い会話をしながら食器選びをしている時だった。
突然その店員さんは何やら嬉しそうに、私へ耳打ちをするように自身の手を口元に添えながら、身を静かに私へ寄せて。
「・・・素敵な旦那様ですね」
そう、囁いてみせた。
「え・・・?」
聞き間違いかと店員さんの顔を見たが、そこにはさっきよりも深くなった笑みがあるだけで。
「あ、えっと・・・っ」
夫婦ではないです。
そう返事をしようと両手を広げた時だった。
自分の左手の薬指に、キラリと光る指輪が見えたのは。