第105章 意図的
「ひなたが必要だと思うもの、全てを揃えよう。事務所にも、僕達の家にも」
・・・言葉、一つ一つが。
痛い。
体に、奥深く刺さっていく。
「そう、だね。どんなのが良いかな」
ちゃんと笑えているだろうか。
ちゃんと呼吸できているだろうか。
彼に・・・気付かれていないだろうか。
そんな不安ばかりで何も考えられない中、彼と二人でとある雑貨屋へと入店した。
そこには可愛い小物や食器が沢山並んでいるのに。
選ぶ気にはなれなくて。
選んだ所で、私が使う事は数少ない。
そしてこれが、彼の嫌な思い出として残ってしまったら・・・どうしようか、と。
「ひなた?」
「あ・・・ごめん」
上の空で一点を見つめる所に声を掛けられ、やはり私にはこういう事は向いていないのだと痛感した。
隠し事なんて。
増して相手は零だ。
ビクつくぐらいなら、最初からしなければ良いのに。
頭では分かっているけれど。
今回はそうもいかなかったから。
「このお皿なんてどう?パスタとかにも合いそうだよ」
慌てて目に付いた皿を手に取っては、とりあえずこれ以上心中を悟られないよう、会話をした。
「・・・そうだな」
そう返事をし、彼は私が手にしていたそれと、同じお皿をもう一枚手に取って。
こんな探り合いをしたい訳でもないのに。
ただ今の時間を楽しめば良いのに。
あの取引のせいでそうできないのは・・・本末転倒のような気もする。
「僕はあっちを見ているから、ひなたはゆっくり選んでいてくれ。また声を掛ける」
気を使ってか、彼は一度私から離れ別のコーナーへと向かっていって。
棚で姿が見えなくなったのを確認すると、少し長めに息を吐いた。
・・・できれば、私は物を増やしたくない。
それは今まで意識していなかったことだけど。
零から言われてしまったせいで、意識してしまった。
これからは一つ物を増やす度に、罪悪感に襲われてしまいそうだ。