第15章 謎特急
「ひなたさん。一つだけ言っておくわね」
その言葉に、今まで以上に身構えた。
「貴女の大切な人が例え敵であっても、自分を責めたりしちゃダメよ」
心臓を鷲掴みにされたように、一瞬で苦しくなった。
それは透さんを指していることは嫌でも分かる。それでも理解はしたくない。
「有希子さんも透さんのこと・・・聞いてるんですか」
「ちょっとだけ、ね」
彼女は元女優だし、これが演技だとしても何らおかしくない。それでもそう見えないのは、単なる彼女の技量なのか。
「私は透さんを・・・信じてます」
私の信念のようなもの。
今の私にとって、彼はなくてはならない存在だから。
「その気持ち、忘れないでね」
そう言うと、有希子さんは一枚の紙を見せてくれて。それはこのミステリートレインの車両地図のようだった。
「今私達がいるのはここよ。ひなたさんには今からこの部屋に行ってもらいたいの。そこに私達の仲間がいるからあとはその人に聞いてね」
どうして毎回詳しく教えてくれないのだろう。私も透さん同様、疑われているのだろうか。
それでも良い。
透さんが組織と繋がりがないことを証明できるなら。
「分かりました」
大人しく有希子さんの指示に従い、周りを見渡し、透さんがいないことを確認してから部屋を後にした。この行動を後悔することになるとは思いもせず。
「・・・ここか」
指定されたのは貨物車の目の前の部屋。
部屋の前で一度立ち止まり、深呼吸をする。
そして、ノックをしようと手を伸ばした瞬間、部屋の扉が開いて中へ引きずり込まれた。
「・・・っ!」
壁に押し付けられた途端、口を塞がれた。
この部屋に窓はない様子で薄暗い。
一気に恐怖で満たされた。
「大丈夫だ、安心しろ。俺はお前達の味方だ」
聞いた事のない声。
でも顔は認識できないが、妙に説得力のある声で。
「アンタの知りたかった答えがそろそろ分かるさ」
そう言って私の口を塞いでいた手を離した。
何だろう。初めて会った気がしない。どこかで会っていただろうか。考えるが心当たりはない。
その男は頻りに廊下の様子を確認しているようだった。
「あの、貴方は・・・?」
小声でそう尋ねると、フッと小さく笑った気がした。
「今はただの死人さ」
彼はそう呟いた。