第104章 終って※
「・・・気にし過ぎだよ」
それは冗談でも、はぐらかしでも何でもない。
本当にそう思ったから口にした言葉で。
勿論、気の所為ではないだろうけど。
無意識に私は、彼にそういう行動を取っているのだろう。
「・・・そうか」
私の返答を聞いた彼は、あまりにもあっさりと引いて。
逃げ場を封じていた彼の手も、同時に退かされた。
「・・・・・・」
追求されても困るのに。
されなければ、されないで不安になる。
どうにも天邪鬼な感情を抱きながら、隣に座る彼に視線を向けては、ゆっくりと体を起こした。
「・・・ひなた」
「な、何?」
彼が私より少し前の方に座ったせいで表情は見えないが、声色は至っていつも通りのもので名前を呼ばれて。
「ひなたから、僕に何かくれないか」
突然そんな事を言いながら振り向いた彼の表情は、笑っているはずなのにそうは見えなくて。
私が勝手に、そう見えているだけなのかもしれないが。
「何が欲しいの・・・?」
残念ながら、私には指輪を買うような財力は無い。
かと言って、彼にあげられるような物も持っていない。
勿論、彼が欲しいというのであれば、諸々が許す限り買う覚悟はあるけれど。
「じゃあ、今ここでキスをくれないか」
今日の彼は本当にどうしてしまったのだろうか。
全てが突拍子も無さ過ぎて。
不安や変な心配ばかりが膨らんでしまう。
「こ、ここで・・・?」
人が来ないだろうとはいえ、躊躇いはある。
それでも彼は、有無を言わさないように私の目の前に座り直して。
ジッと私を見つめて、その時を待っていた。
「・・・ッ」
どうして今、ここでそんな事を言ったのだろう。
色んな思いがぐるぐると頭を駆け巡る中、彼に見つめられているせいか、羞恥がグッと込み上げて。
「目、閉じてて・・・っ」
見られていると、この緊張感が無くなりそうにない。
思わず視線を逸らしながら彼にそう頼むと、数秒後に視線を戻した時には、彼の瞼は既に閉じられていた。