第104章 終って※
「・・・ッ!」
これで赤面せずにいられるものか。
本当の夫婦であれば、そんな事もないのかもしれないが。
・・・例え本当の夫婦でも、相手が彼であれば、こういう事には一生慣れることはないだろう。
「ひなた」
「?」
信号が青に変わり車が発進すると、彼は前を向いたまま私の名前を呼んで。
昨日から彼は私の名前を頻繁に呼んでいる。
そう意識がある程度には。
「今日は僕の秘密の場所に、案内しよう」
秘密の場所・・・。
以前もその一つを教えてもらった気もするけど。
今度はどこに連れて行ってもらえるのだろうか。
ーーー
「ここだ」
そう言って車を止めたのは、周りに何も無い小さな駐車場で。
その駐車場には、彼の車以外は一台も止まっていなかった。
「少し歩くが、大丈夫か?」
「うん」
車から降りると、彼は私の傍へと来ては手を差し出して。
手を繋ぐという意味だとはすぐに分かった。
だからその手に手を重ねようとしたけれど。
一瞬、自分の中のストッパーが働いてしまい、差し伸べかけた手は触れる直前で止まってしまった。
「・・・・・・」
繋ぎたい。
けれど、いい歳をしておいて、これは良いのだろうか。
手を差し出してくれた彼には悪いが、そんな理性が働いてしまった。
「誰も見ていないさ」
「!」
彼も、私が何に躊躇ったのかはすぐに分かったのだろう。
だからそう言ったのだろうから。
・・・でも自分の中で、ストッパーが掛かった理由は他にもあって。
「そう、だね」
途端に、私の中で彼を色濃く残しておくのが怖くなった。
だから手が止まった。
とりあえず説得に応じた様にして、差し出された彼の左手に私の右手を重ねた。
その手から伝わってきた冷たさは、彼の体温だけではなくて。
薬指にはまったそれが、少し違う冷たさを感じさせた。
「こっちだ」
手を取った彼はグイッと私を引くように連れ出して。
無邪気に見える彼はまるで、少年に戻っているようにも見えた。