第104章 終って※
「どこへ行く?」
「・・・え?」
彼の体で受け止められると、そのまま背後から腕を回されて。
見上げるように彼の顔を見れば、さっきの優しい笑顔とは裏腹に、ほんの少しだけ焦りを見せるような表情があった。
「消毒・・・しようと思って・・・」
彼にとっては大したことのない傷でも、油断はできない。
そう、思っただけなのに。
どうしてそんな顔をするのだろう。
「・・・そうか」
私の返事を聞くと、彼はどこか安堵した様子で回していた腕を取り払った。
・・・私の何で、そんな顔をさせてしまったのだろう。
せめてその理由だけでも知りたいけれど、追求もできなくて。
「消毒はいい。それより食事にしよう」
有無を言わさない様子で、彼は適当に取ったTシャツを身に付けた。
そのまま台所へと向かう背中をただ見つめることしかできず、暫く呆然と立ち尽くしてしまって。
この違和感の正体は、一体何なのだろうか。
ーーー
「ひなた、今日は休みだろう?」
「・・・うん?」
食事を済ませ、彼の入れてくれたコーヒーを飲んでいると、突然今更なことを確認されて。
休みでなければ、こんなにもゆったりと過ごしてはいないから。
何故そんなことを確認したのかと尋ねるように返事をすると、彼は持っていたカップを机に置いて。
「少し、僕に付き合ってくれないか?」
「いいけど・・・どこに?」
まあ、大抵聞いた所で。
「ついてきての、お楽しみだ」
教えてはくれないけど。
それから脱衣所で着替えとメイクを済ませていつもの部屋へと戻ると、彼はパソコンの画面を静かに見つめていて。
手を口元に当てていたせいで表情を詳しくは読み取れなかったものの、その視線は優しく温かいものだった。
・・・でもどこか、寂しそうにも見えて。
「零?」
「ああ、すまない。準備できたか?」
私の問い掛けに気付くと、彼はノートパソコンを閉じようとして。
それに、待ってと静止の言葉を掛けると、彼は僅かに目を丸くして手を止めた。