第104章 終って※
勿論、それを誰が付けたのか。
覚えてはいる。
でも妙に恥ずかしく感じるのは何故だろう。
自分から付けても良いかと尋ねたくせに。
自分からその場所に、付けたくせに。
「ひなた?」
「な、何…?」
変に間を作ってしまったせいか、彼がどこか不安そうに私の顔を覗き込んできて。
「まだ疲れているなら、眠っていても構わないが?」
彼のその十分過ぎる優しさには大きく首を振り、大丈夫だよと、なんとか笑顔を作って見せた。
それでも心配そうにする彼だったが、し過ぎだと伝えれば渋々納得して。
「朝食、食べるだろう?すぐ用意する」
「あ。手伝う、よ…」
起きるのであれば、と食事の準備をしようと立ち上がった彼に続いて腰を上げた時。
彼の背中にも、とんでもないものを見つけてしまった。
「…っ」
生々しい傷跡。
それは以前からもあったけれど。
古い傷跡の中にある、真新しい引っ掻き傷。
そこに紛れて所々青くなっている部分もある。
流石にこれには、顔が青ざめてしまった。
「れ、零…!」
「ど、どうした…?」
思わず彼の腕を引いて引き留めると、背中の傷を改めてじっくりと見た。
私が爪を立ててしまったせいだ。
私が、自制無く彼に縋りついたせいで。
こんな傷跡を残してしまったと、彼の背中にそっと指先を触れさせた時、彼は私が何に顔を青くしているのか察したようで。
「気にしないでくれ。そうさせてしまったのは僕だし、ひなたがくれたものは傷跡でも嬉しいさ」
…こんな時でも、彼は優しい。
その優しさは少し斜め上な気もするけれど。
そしてその優しさが酷く不安にもなってしまう。
「い、痛い…よね…」
せめて消毒だけでもしなければ。
爪痕は跡が残りやすいから。
そう思って救急箱を取りに行こうとした時。
「!」
今度は私の腕を、彼が引いて。
反動で思わず彼の体にぶつかるように、体勢を崩した。