第104章 終って※
何故?と尋ねる余裕どころか、瞼を開く余裕もなくて。
ただくったりとして頬にある彼の手の冷たさを感じていると、今度は唇に優しい感触を受けた。
「キスでは目覚められないか?」
その感触と言葉で僅かに瞼を上げる力を取り戻すと、何とか瞼を開くことはできて。
「ひなた」
・・・相変わらず、人を溶かすような声で名前を呼ぶ。
そんな声で呼ばれれば、全神経が起きろと騒ぎ出してしまう。
「もう少し、ひなたの声を聞いていたいんだ」
前々から思っていた事ではあるけれど、何故彼はそういうことを平気で言えるのだろう。
仕事柄、なのだろうか。
「・・・珍しいね」
その反面、言葉の意味としてはそう思った。
いつもならそのまま私を眠らせるのに。
・・・時々、言葉なく起こすこともあったけれど。
「言っただろ、浮かれていると」
確かに言ったけど。
言葉には出しても、態度に強くは出ないのだなと感じて。
「僕はもう少し、ひなたに触れていたい」
・・・またズルい言い方をする。
僕は、なんて。
「私は違うと思ってる?」
いつの間にか眠気が遠くに行ってしまったことに気が付きながら、口を軽く尖らせては眉を顰めた。
それを見た彼は優しい笑顔を見せながら小さく笑いを零して。
「ひなたも同じだったら良いなとは、思っている」
分かってるくせに。
私がどう思ってるかなんて。
いつも、そうだから。
「今度こそ、口を開けてもらうぞ」
頬に触れていた手が滑り、彼の親指が唇をなぞって。
それにゾクッとするような感覚を覚えながらゆっくり口を開くと、今度は満足そうな笑みを見せた。
「・・・愛してる」
唇が触れる直前、彼は私に染み込ませるようにそう言って。
そういうことをされると、心臓がもたない。
彼と居ると、心臓が幾つあっても足りない。
・・・色んな意味で。