第103章 これで※
「・・・ひなたの匂いがするな」
「?」
それは私だから当たり前の事だと思いながらも、自分ではその匂いというのが分からなくて。
「・・・汗?」
「いや、そうじゃない」
分からない、けど。
全てが分からない訳でもなくて。
「零からも、零の匂いがする」
自分の匂いは分からないけれど、彼の匂いは分かる。
そういえば工藤邸に彼が来た時も、姿は見ずとも彼だと分かったのは、この匂いだった。
「・・・以前、人間の記憶から最初に消えるのは声だと言ったのを覚えているか」
「うん」
確かに、そんな話もした。
「反対に、最後まで記憶に残るのは、匂いらしい」
・・・そうなのか。
言われてみれば確かに、匂いには懐かしさを感じるものもある。
「僕は、この匂いを一生忘れられないのだろうな」
そうポツリと独り言のように呟く声は、どこか切なくて。
それは私も同じだ。
・・・そう思うと同時に、その言葉に違和感を感じた。
その違和感の正体が分かるのは・・・また後日のことで。
「・・・っ」
彼がギュッと再び力を強めた時、太もも辺りに確かな存在感を感じた。
・・・彼の、モノだ。
服越しではあるが、硬くなっているそれが太ももに当たっているのを、確かに感じる。
「れ、零・・・」
「どうした?」
きっと彼も苦しくて、早く入れたいだろう。
でも今すぐそうしないのはきっと、私がゆっくりと頼んだからで。
いつも私ばかりが先に気持ち良くなって。
何度も堕ちて。
これは・・・良くない気がして。
「わ、私も・・・」
彼のモノに、触れたい。
そう言いかけた時、以前の彼の行動がフラッシュバックした。
組織にカメラで見張られながら至った時、同じように彼のモノに触れようとした。
でも彼はどこかそれを拒むように、シャワールームへと私を連れ出して。
「ひなた?」
固まってしまった私を不思議に思ったのか、抱きしめていた体を僅かに浮かすと、彼は私の目を優しく見つめた。