第103章 これで※
「一つ・・・変なこと、聞いてもいい?」
もしかして彼は、私が触れるのは嫌だったりするのだろうか。
私の質問に、彼は表情に出るような疑問符を浮かべながら、小さく頷いてみせて。
「零は、私が触れるのは・・・嫌?」
この尋ね方では明らかに不備がある。
でも踏み込んだ言葉で尋ねることは到底できなくて。
「嫌だったら、こういう事はしていないだろ」
当然の言葉を返されながら、何故だ?と付け足しては顔を近付けた彼の目を、まともに見ることができなくて。
目だけを逸らしながら動揺を滲ませ、恐る恐る口を開いた。
「前に・・・零のを触ろうとしたら、止めた、から・・・」
言葉を濁しながら。
それとなく、触れてはダメかと聞いてみた。
察しの良い彼は、いつの何の事か、そして私が何を言いたいのか、すぐに気付いた様子で。
「あの時も言ったが、あれは奴らが見ていたからだ」
・・・それは分かってる。
そう言ったのも覚えている。
でも、どこか拒んだようにも感じたから。
実はそうなのではないかと不安になっただけで。
目を更に伏せ、本当に変なことを聞いてしまったなと遅過ぎる後悔をしていると、今度は両頬を片手で挟むように摘まれて。
口を軽くムッと突き出されると、視線は自然と彼へと向いた。
「僕も見た事のないひなたの姿を誰かに見せるなんて・・・気が狂う」
眼光鋭く、力強い眼差しで私を見るその表情は、余裕そうにもその逆にも見えて。
「・・・ひなたが触れるのは、嫌じゃないさ」
頬を掴んでいた手が離れると、指の甲で頬を撫でられた。
・・・あの時は、勢いで行動を起こせたのに。
今は嘘のように、どうしたら良いか分からない。
彼は良いと言ってくれたのだから。
私が触れても良いかと聞いたのだから。
私から動かなきゃいけないのに。
「!」
どうすれば良いだろうかと戸惑っていると、彼は小さく笑いを漏らして私から一度体を離した。