第103章 これで※
「私も十分、浮かれてる」
でなければ、さっきのような事はしない。
浮かれつつも、眠る前に嫌いなんて言ってしまった手前、その喜びを全面に出し切れていなかっただけ。
いや、きっと。
眠る前から、浮かれてはいたのだろうな。
「・・・正直、ひなたに嫌いと言われて安心もした」
「え?」
今度は彼が私の肩へと顔を埋めると、徐ろにそんなことを言って。
きっと彼は傷付いて、気にしていると思っていたから。
真逆の言葉が彼の口から出て、素直に驚いた。
「まだ見た事のないひなたの一面を見た気がして」
彼は以前から、彼に見せない一面というのをよく気にしている。
沖矢さんに向ける私の方が、素に近いのではと気にしていた頃もあった。
「そういう事も、ちゃんと言えるんだと・・・安心した」
「れ、零に言った訳じゃないよ・・・っ」
何度でも言うが、あくまでもあれは。
「分かってる」
そう言うと同時に、ギュッとキツく抱き締められて。
苦しさと同時に切なさが押し寄せて。
「・・・嫌なら言ってくれ。今のうちだ」
顔は私に埋めたまま。
表情は確認できないが、見せないということは見せたくない表情をしているのだろう。
「零を嫌だと思った事は無いよ」
彼のその言い方は、ズルい言い方だとは思う。
ただ、それに対する答えは一つしかないから。
「でも今日はちょっとだけ・・・ゆっくりしてほしい、かも・・・」
でなければ、体も、頭も、心も、全てが壊れてしまいそうだから。
・・・無論、甘さと幸せで。
「善処する」
そう言った彼の手が再び服の中へと潜り込み、肌へと触れた。
声を抑えた反動か、体はピクっと小さく跳ねて。
指先だけで上へと登ってくるその感覚を、彼の指の冷たさだけで感じとって。
「ひなた」
肩に埋めていた彼の顔も少し上へと来ると、耳元で名前を囁いて。
思わず彼の肩にしがみつくように手を回すと、軽く力を込めた。