第103章 これで※
「む、無理なんて・・・」
・・・していない、はず。
していない、のだろうか。
では何故さっき、彼の手を止めさせたのか。
「すまない、少し浮かれていたんだ。今はゆっくり休んでくれ」
ようやくこちらを向いた彼の表情は、優しく笑っていた。
そして頬に触れた手は、いつも通り冷たくて。
私を見つめる目は、正義感溢れたもので。
「・・・っ」
・・・それら全部が好きだ。
「・・・!」
分かりきっていた事実を体全体で急激に感じた時、気付けば彼を押し倒し、馬乗りになるように彼の上に跨っていた。
「ひなた・・・?」
戸惑った表情を見せる彼を見下ろすと、気持ちの荒ぶりと比例するように息も荒くなって。
「っ・・・!」
勢いに任せるように、彼の胸ぐらを掴みながら唇を塞いだ。
「・・・んっ」
こんなに自分から舌を絡めにいったのは、初めてかもしれない。
きっと彼には拙くて、もどかしいだろう。
けど彼も、どうにか私のそれに応えてくれていて。
「っ、ふ・・・んぅ・・・」
・・・どうして、こんな事をしてしまったのかは、自分でも分からない。
体が先に動いてしまっていた。
もしかすると、まだ酔っているのかもしれない。
寧ろ、そうなら良いのにと思ってしまった。
「・・・っ、は・・・」
息が苦しくなり、唇を離した瞬間、後頭部に彼の手が素早く回ると、いつの間にか今度は彼が私を見下ろしていた。
「そういう事をされると色々保てなくなると・・・前に言わなかったか?」
ベッドに押し倒していたのは私だったはずなのに。
簡単にそれは反対になってしまった。
「必死に耐えているんだ。今は、あまり煽らないでくれ」
私を見下ろす彼の目は先程と違い、どこか揺らいでいて。
さっきまでの笑顔も嘘のように、余裕がないものになっていた。
いや、嘘のように・・・などではなく。
彼の言葉通り、本当に嘘だったんだ。
「・・・浮かれていてよ」
ポアロを辞めさせた事も、連絡をくれなかった事も、正直寂しさや辛さはあった。
けどそれらを消しされるのもまた、彼しかいなくて。