第103章 これで※
「・・・ひなた?」
抱きついていた体を離すと、顔ごと俯いて。
触られるのが嫌なのではない。
そういう行為をするのが嫌なのではない。
結果として拒んだ形や、彼に嫌いと言ってしまった事、どうして良いか分からない自分。
そして、甘過ぎるこの時間に、動揺し過ぎているだけで。
「少し待っていてくれ」
何も言えなくなっている私の頭を数回ポンポンと軽く叩いては、そう声を掛けて彼は台所の方へと向かった。
その背中を見つめては、この動揺の中の大きな理由に気が付いてしまった。
「・・・・・・」
何となく、だけど。
「・・・っ・・・」
もう終わりが近いことを、体が感じているのかもしれない。
「水を飲んだ方が良い」
そう言いいながら戻ってきた彼の手には、水の入ったコップが握られていた。
それを見ては、眠ってしまう前に彼に飲まされた記憶もあったことを薄らだが、ふと思い出して。
「・・・ありがとう」
それを受け取り、一気に胃に流し込むと、空になったコップを零が受け取って。
それをテーブルに置くと、再び彼がベッドに腰掛けるが、今度は何故か私に背を向けていた。
「・・・悪かった」
「な、何が・・・?」
私が謝ることはあっても、彼が謝る事なんてない。
さっき彼も言っていたが、私が酔っている最中、彼は何度も謝罪の言葉を口にしていた。
・・・本当にそんな必要はないのに。
「あまり、触れられたくはなかっただろ?」
「・・・っ!」
ああ、しまった。
誤解させてしまっていた。
「そんなことない・・・っ、ただ、どうしていいか分からなくなっただけで・・・」
本能に従えば良いだけだとは思うのだけど。
今は何故か素直にそれができなくて。
「れ、零には・・・触ってほしい・・・」
これは、紛れもない本音だ。
嘘偽り無い、本当の思いだ。
だけどそれが本当に。
「・・・今は無理しなくて良い」
相手に伝わるかどうかは、分からない。